われわれの世界には、何時でもどこでも、この棍棒を持った男たちが偏在している。われわれのほとんどは、彼らの存在を考えずに生きるためだけに、数限りない境界線や柵を越えることなど、考えることさえあきらめている。毎日どの大都市でも見かけられるように、ひもじさで倒れそうな女性が、食べ物の山から数メートル離れて立っている。だが、われわれにはそれを取って彼女にあげることができない。なぜなら棍棒を持った男たちが現れ、われわれを打つからである。
デヴィッド・グレーバー『アナーキスト人類学のための断章』P130,高祖岩三郎訳,以文社
ここのところしばらく元気がなく、藤井聡太の乙女ゲーをやることぐらいしかできていなかったのだが、ようやく本を読んだり考えたりできる程度に回復してきた。空気中にほのかに漂う春の気配のおかげだろうか?
斎藤幸平の『ゼロからの『資本論』』とグレーバーの『アナーキスト人類学のための断章』を読んだらアナーキーな気持ちになってきたので、そのテーマと態度を持ってしばらく読書に臨もうかなという感じ。先行してアナキズムに傾倒している(?)人間もちょうど家にいることだし…。
結婚して最も良かったことの一つは、お互いの蔵書を共有できるようになったことかもしれない。夫が歯を磨きながら私の本棚を眺めていたり、いつの間にか私の本を読んでいたりすることが、何気なく・しみじみと嬉しい。私も夫の本を勝手に読み、その本を通じて興味を持って・読みたいと思ったものが既に本棚に揃っている ということが多く、かなり助かっている。逆に私がなんとなく買って置いておいた本をなんとなく読んだ夫が、そこから良いアイデアを得たらしく「結婚してよかった…」としみじみ言っていたのも、気が合うな〜と思って良かった。
人と暮らすようになれば当然だが一人でいられる時間がほとんどなくなり、あらゆる人間の中でかなり気が合い・気を許せる相手とは言え、自分以外の他者がずっと共にいること由来の疲れというのは否めない。時折意味もなくぐったりしてしまう。とはいえ、やっぱりこうしてお互いに影響を受けたり/与えたりしながら変わっていくことは、他者と共に暮らすということの醍醐味だなと思う。自分一人でずっといると、自分自身からどこまで行っても離れられなくて、しんどくなる時あるものね。とはいえこれはたまたま気が合う人と結婚できたから成り立っているだけであって、本当に僥倖ですね。
ここまで書いてて思ったけど、これ「かなり気が合う人と一緒に暮らす」楽しさだから別に制度としての「結婚」とは何も関係ないな。「結婚して良かったこと」ではなかった。私は前から1対1の夫婦は家族として小さすぎると思っていて、別に複数の夫を持ちたいというわけではないけれど既存のモノガミーを中心とした体制に対するオルタナティブな在り方としてのポリアモリーが実践できたらいいのに、と思っている。でもその場合なら「ポリアモリー」とわざわざ言わず、単に「群れ」でいいのかもしれない。今日読んだグレーバーにもそんな話がちょうど出てきて、「それだよそれ〜」となった。
※ポリアモリーについてはこの記事が面白かった→ 「リアルポリアモリーとはなにか?」幌村菜生と考える“21世紀的な共同体”の可能性
グレーバーは、現代アクティビズムに必要な直接民主主義的な合議方法、集団的意思決定過程の実践的方法の核となるものとして、「類縁グループ」と「スポーク会議」という集合性を挙げている。類縁グループは4〜10人ぐらいの仲間からなる集合で、例えばエコ・フェミニスト・レズビアンであるとか、同じ地域出身であるとか、友人であるとか、なんでもいいらしい。この類縁グループが大規模な行動を起こす際の基本的単位となり、スポーク会議という行動前の大会議で合意形成を行う、という流れになる。今のところ私は具体的に何か「大規模な行動」をする気もできる気もしていないけれど、まずこの「類縁グループ」というのはいいよね、と思った。北米で有名な異教的アナーキズムの活動家によれば「類縁グループとは、お互いに共感を持ち、お互いの強さも弱さも知り、支えあい、そして政治/活動をやる(やろうとする)グループである」とのこと。類縁グループ… 実現したい! と思うけど、気難しくて人付き合いな苦手な人間がこの手のコミュニティを結成したり/維持したりするのって、かなり難易度が高いとも同時に思う。「気難しくて人付き合いが苦手な類縁グループ」を作ったらいいのか? それはちょっと「明かしえぬ共同体」っぽい。
グレーバーによれば、マルセル・モースは「革命的社会主義者」で古典的なアナーキスト的信条を持っていたとのことなので、昨年来のさまざまなお祝い等に対する返礼疲れ以来高まってきていた『贈与論』を読む機運がいよいよ熟してきたな。贈与日記のタイトルに恥じないよう、次はついに贈与論を読むか〜(『魔の山』もドメインに使ってるんだしちゃんと読もうね)